大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和47年(ラ)508号 決定

抗告人 安島敏市

〈ほか二名〉

右三名代理人弁護士 小泉征一郎

同 川端和治

相手方 東京菱和自動車株式会社

右代表者代表取締役 山脇辨蔵

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨は別紙一記載のとおりである。

二、本件抗告の理由は別紙二抗告人の主張記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

(一)、抗告理由一の(一)(事実誤認の主張)について。

原決定はその理由の第二の二1(二)(9)において、抗告人らは昭和四四年一二月二二日午前九時頃から無断で職場を離れ相手方会社(以下単に会社という)の本社(都内渋谷区富ヶ谷所在)三階にある総務部事務室内に入り、執務中の総務部長南沢甲に対し、「俺達を何と思っている。」「懲戒委員会にかけられる理由がないじゃないか。」「我々とは対話がないじゃないか。」「懲戒委員会の開催は不当である。」「即時中止にすべきである。」等々と口々に大声で怒鳴り、総務部長が、諸君らが会社に対し話すことがあるなら場所と時間をあらかじめきめて十分に聞くが、今は執務中であるから、無断で職場離脱をせずにすみやかに営業所へ戻るようにいったにもかかわらず、抗告人らはこれに応じないでなお総務部長にくってかかって右総務部長の執務を妨害したとの事実(以下(9)の事実という)について疏明があると判示している。

ところで抗告人らはまず、原決定は抗告人らが始業時間になってから無断で職場を離脱し総務部長室に行ったと認定したように主張し、その事実誤認を云々するが、原決定のこの点に関する判示は措辞やや妥当を欠くけれども、原決定が疏明ありとする抗告人らの勤務する職場(原決定の理由第二の二1(二)(1))やその他本件の疏明資料を参酌すると、原決定は要するに、抗告人らは昭和四四年一二月二二日午前九時頃東京都渋谷区富ヶ谷所在の会社の本社三階の総務部事務室に入り、執務中の総務部長南沢甲に対し原判示のように口々に大声で怒鳴ったり、同総務部長が原判示のようにいったのに応ぜず同総務部長にくってかかったりし、抗告人らの右行動は会社の城西営業所(東京都練馬区豊玉所在)に勤務する抗告人安島及び同足立ならびに会社の城東営業所に勤務する抗告人加沢が、いずれも会社に無断で右各職場に出勤せずに本社に赴いてなしたものである事実を判示したものと解することができ、原決定は抗告人らが当日一旦職場に就いた後に無断で職場を離脱した旨を判示したものとは解せられないから、抗告人らの主張はあたらない。そして右の事実は≪疏明省略≫その他の資料によって疏明され、右疏明を覆すに足りる資料はない。

次に所論は、原決定は南沢総務部長が抗告人らと全く関係のない事務を行っていたかのように認定しているが、同総務部長は午前九時から抗告人ら所属の労働組合と抗告人らに関する懲戒審査委員会の開催について折衝する予定になっていたのであり、抗告人らもこれに出席するつもりで総務部長室に行ったものであるから、抗告人らの抗議や質問を受けることは同総務部長の予定していた職務の範囲内に属し、仮に組合の宮崎執行委員長が来て折衝する前に抗告人らが同総務部長と折衝することは同総務部長の予定しないところであったとしても、それは同総務部長の意に反しその職務の妨害となったということはできないと主張するので、検討するに、≪疏明省略≫によると、昭和四四年一二月二二日午前九時二〇分頃抗告人らの所属する東京菱和自動車労働組合の執行委員長である宮崎仁宏が総務部事務室に行き南沢総務部長に対し、当日開催される抗告人らに関する懲戒審査委員会について抗議し折衝し、抗告人らもその際同席していたことが疏明されるけれども、右の折衝が予め組合よりその申入れをし会社がこれを承諾していた等当初から予定されていたことを疏明するに足りる資料はなく、まして抗告人らが職場に就かずに本社に赴き南沢総務部長と折衝することを同総務部長が予定していたことを疏明するに足りる何らの資料もないのであるから、抗告人らの抗議、質問を受けてこれを聞くことが当時同総務部長の当然の職務に属していたとは認められず、したがって、抗告人らが執務中の同総務部長に対し原判示のように口々に大声で怒鳴り、同総務部長が、諸君らが会社に対し話すことがあるなら場所と時間をあらかじめきめて十分に聞くが、今は執務中であるから、無断で職場離脱をせずにすみやかに営業所へ戻るようにいったにもかかわらず、抗告人らがこれに応じないでなお同総務部長にくってかかった以上、抗告人らはこれによって同総務部長の執務を妨害したことが明らかであって、抗告人らの主張は採用できない。

更に所論は、南沢総務部長は虚言を弄して一方的に話し合いの場から逃亡し、組合側に対して誠意を尽しておらず、一番責めらるべきであるのは同総務部長であると主張するが、そのような事実があったからといって、抗告人らが同総務部長の執務を妨害したことを否定する根拠とならないこというまでもない。

(二)、抗告理由一の(二)(就業規則の解釈の誤りの主張)について。

原決定は前記(9)の事実は会社の従業員就業規則の左記条項に該当するものと判定している。

「第三九条 従業員が、次の各号の一に該当する場合には懲戒解雇する。ただし、情状酌量の余地があると認められるときは、出勤停止又は減給に止めることがある。

五、正当な理由なしに、上長の指示命令に反抗し、職場の秩序をみだしたとき。

六、会社内において、他人に暴行脅迫を加え、又はその業務を妨げたとき。」

ところで所論は右(9)の事実に関してまず、会社は抗告人らが一九日間無断欠勤したとの理由及び犯罪行為を犯し逮捕されたとの理由で抗告人らを懲戒解雇しようとして懲戒審査委員会を招集したのであるが、右は全く根拠のない解雇を強行しようとしたものであって、これに対し抗告人らが抗議したのは正当であるのに、原決定が被告人らの無断欠勤ならびに犯罪行為が存するかどうについて判断せずに、(9)の事実について抗告人らの行為が「正当の理由なしに、」上長の指示命令に反抗し、職場の秩序をみだしたときに該当すると判断したのは、就業規則第三九条第五号の解釈適用を誤ったものであるとの趣旨の主張をするので、この点について検討する。

≪疏明省略≫によれば、懲戒について規定する会社の前記就業規則第三九条には、懲戒解雇の事由として、その第一号に「正当な理由なしに、無断欠勤連続一四日以上に及んだとき」と、同第一二号には「刑罰法規に定める違法な行為を犯したとき」とそれぞれ定められていることが疏明されるところ、抗告人らは昭和四四年一一月一六日行われたいわゆる佐藤訪米阻止抗議行動ないし阻止斗争といわれるものに参加した結果同日逮捕勾留されたのち同年一二月七、八日頃不起訴のまま釈放され、このため同年一一月一七日から同年一二月八日まで会社を欠勤したことは当事者間に争がないのであるが、右逮捕勾留が果して不当なものであったかどうかはとも角として、抗告人らが犯罪行為を行ったことを疏明するに十分な資料はないし、また≪疎明省略≫によると、会社の就業規則等一九条には「病気その他やむを得ない事由によって欠勤しようとする者は欠勤届により所属上長を経て届け出なければならない。ただしその暇のない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。」と定めてあることが疏明されるところ、抗告人らが犯罪行為を犯していないのに逮捕勾留されたとすれば、そのために会社を欠勤したことは特段の事情がない限りやむを得ない事由によるものと認められ、そして疏明資料によれば、抗告人らは弁護士小泉征一郎を通じて同弁護士名義で昭和四四年一一月二〇日付の欠勤届(ただし表題は休暇届)を会社に提出し、右欠勤届は同月二二日会社に到達したことが疏明されるから、抗告人らの欠勤が就業規則第三九条第一号にいう無断欠勤にあたるともいえず、したがって抗告人らに就業規則第三九条第一号及び第一二号の懲戒事由が存することについては疏明がないことに帰着する。

しかし、疏明資料によれば、前記のいわゆる佐藤訪米阻止抗議行動といわれるものは、原決定記載のように、都内品川地区や同国電蒲田駅周辺を中心に昭和四四年一一月一六日午後三時すぎ頃から午後一〇時頃にかけて行われ、いわゆる過激派学生や反戦青年委員会系労働者らが大量の火焔びんを搬入投擲し、警備の警察官に対する投石、街路上でのバリケードの構築等を行い一般市民まで巻き添えにしたものであって、大量の学生、労働者が公務執行妨害、凶器準備集合等の罪名で現行犯逮捕され送検されたこと、抗告人らは同月一七日から会社を欠勤したので、会社は抗告人らは右佐藤訪米阻止抗議行動に参加して逮捕されたのではないかと思い、警察庁に照会したところ、抗告人らはいずれも右行動に参加し、抗告人安島は公務執行妨害の、抗告人足立は公務執行妨害、凶器準備集合の、抗告人加沢は公務執行妨害、道路交通法違反の各罪名により逮捕勾留され、殊に抗告人安島は逮捕時に全共斗と記載された赤色ヘルメットを着用しており、抗告人足立は同様反戦、安保粉砕と記載された赤色ヘルメットを着用していた事実が判明したことが疏明されるので、会社としては、たとい抗告人らが起訴されずに釈放されたにしても、抗告人らが右の各罪名のような犯罪行為を犯したのではないかとの疑を抱いたからといって、あながち無理ではなく、またもしも抗告人らが犯罪を行って逮捕勾留されたため欠勤したものとすれば、特段の事由の存しない限り、前記の就業規則第一九条にいう「やむを得ない事由」により欠勤したものとはいい難く、したがって欠勤届を提出しても会社の承認を得ない限り無断欠勤としての取扱いを受けることは避け得ないものと解されるところ、疏明資料によれば、会社は昭和四四年一二月一八日頃抗告人らから抗告人らが逮捕された事情を直接聴取しようとして問いただしたことが疏明されるのであるから、抗告人らとしてはもしも犯罪行為を犯していないのであれば、そのような機会に事情を説明して十分弁解すべきであるのに、疏明資料によれば、抗告人らはいずれも詳細な事情を語らず(≪疎明判断省略≫)、かえって「回答の必要はない。」「会社はどうして警察のようなことを聞くのか。」「そんなことは警察に行って調べろ。」などといって回答を拒否したことが疏明されるのであるから、会社が上記の理由による懲戒解雇を議題として懲戒審査委員会を開催しようとしたからといって、それのみであながち根拠のない事実を捉えて解雇を強行しようとしたものと断ずることは当を得ないものというべく、抗告人らが右のように会社の事情聴取に応じないでおきながら、逮捕勾留が不当であり、抗告人らの欠勤も無断欠勤にあたらないとして、懲戒審査委員会の開催に抗議し、執務中の南沢総務部長に対し前記のように口々に大声で怒鳴ったりくってかかったりしたのは相当でなく、また抗告人らは無断で職場離脱(正確には前記のとおり職場に出勤せずに本社に赴いたこと)の上右のような行動をとったのであるから、抗告人らの行動は到底正当な理由に基くものと解することはできない。したがって結局所論は採用できない。

次に所論は前記(9)の事実に関し、原決定は抗告人らについて就業規則第三九条第五号にいう「職場の秩序をみだした」との事実を認定していないし、しかも「職場の秩序をみだした」というには、それが会社の運営に具体的な損害を与える程度のものであることを必要とすると解すべきであるが、原決定はなんらそのような事実を認定していないと主張するけれども、右就業規則にいう「職場の秩序をみだした」というには、所論のように会社に具体的な損害を与える程度のものであることまでをも必要とするものと解すべき根拠も見出し難く、抗告人らの前記のような行動が右「職場の秩序をみだした」ものに該当することは明らかというべきであるから、所論は採用できない。

更に所論は前記(9)の事実に関し、就業規則第三九条第六号の「業務を妨げた」というにも、それが具体的に会社の運営を阻害し会社に損害を与えた場合でなければならないと解すべきところ、そのような事実を認定しなかった原決定は右就業規則の条項の解釈を誤ったものであると主張するが、右の「業務を妨げた」というのに抗告人主張のような場合でなければならないと解すべき根拠も見出し難いから、所論は採用できない。

よって論旨はすべて理由がない。

(三)、抗告理由一の(三)(就業規則の解釈の誤りの主張)について。

原決定はその理由の第二の二1(二)(10)において、抗告人らは昭和四四年一二月二二日午後一時すぎ頃から、会社が役員会議室において抗告人ら及びそのほかの者にかかる懲戒審査委員会を開催中、突然右会議室に乱入し、審査委員長下元専務取締役や総務部長に対し、口々に「勝手なことをするな。」「そもそもこの開催は不当である。」などと大声でわめき散らし、右下元専務らが制止し、退室するよう求めたが、これに応じないで、少くとも二〇分以上にわたり、同委員会の会議の進行を妨げたとの事実(以下(10)の事実という)について疏明があるとし、右の事実も前記就業規則第三九条第五号及び第六号に該当するものと判定している。

これに対し所論はまず、抗告人らが懲戒審査委員会の会議場へ行ったのは、第一に会社は全く解雇理由にならないことをもって懲戒解雇をしようとしていることに抗議するためであり、第二にその手続を懲戒実施規定及び労働慣行に違反し労働組合抜きに強行しようとしていたためであり、第三に話し合いに応じる約束をしていた南沢総務部長が話し合いの継続中に虚言をもって組合執行委員長及び抗告人らを騙してこっそり懲戒審査委員会を開催しこれに出席していることを知ったためであり、いずれにしても、抗告人らが抗議をするのは正当であって、右の諸点について判断をすることなく、抗告人らの抗議が正当な理由なくなされたものと認定した原決定は不当であると主張する。しかし抗告人ら主張の第一ないし第三のような事実があっても、懲戒審査委員会開催中の会議場に乱入し、原判示のように口々に大声でわめき散らし、退去要求に応じないで会議の進行を妨げたことは到底正当な行為ということはできない(疏明資料によれば前記(10)の事実が疏明され、右疏明を左右するに足りる資料はない)から、所論は採用できない。

また所論は懲戒審査委員会の審議の進行は業務ではないと主張するが、従業員の懲戒に関する審査委員会の開催ならびに審議の進行は正に会社の業務に属することは多言を要せず、所論は排斥を免れない。

次に所論は、具体的な実害の発生についてなんらの認定をせずに、抗告人らの行為を就業規則第三九条第五、六号に該当すると認定した原決定は右就業規則の規定の解釈を誤ったものであると主張するが、右就業規則の規定する「職場の秩序をみだし」又は「業務を妨げた」というには、これにより具体的な実害が発生したことまでをも必要とするものと解すべき根拠の見出し難いこと前示のとおりであるから、所論は採用できない。

更に所論は、懲戒審査の手続においては関係者の意見を聞くことが予定されているのであるから、抗告人らの発言は業務の妨害、秩序の侵害とはならないと主張するが、≪疎明省略≫によれば、会社の従業員懲戒実施規程第八条には「委員長は審議上必要と認めたときは、当該関係者を招集し意見を聞くことがある。」と規定されていることが疏明されるけれども、それだからといって、抗告人らが懲戒審査委員会開催中の会議場に乱入し、わめき散らして会議の進行を妨げたことが業務の妨害や秩序をみだしたことにならないとは到底認められない。

よって論旨はすべて理由がない。

(四)、抗告理由二(懲戒の手続違反に関する主張)について。

所論はまず、労働組合の代表が懲戒審査委員会に出席せずになされた抗告人らに対する懲戒解雇は無効であると主張する。

会社の従業員懲戒実施規定第六条には懲戒審査委員会の構成員中その委員として、営業担当常務、総務部長、当該部所長のほかに「労組執行委員若干名(ただし組合員の懲戒に関する審査の場合に限る。)」が定められているのに、会社は懲戒審査委員会の招集にあたり抗告人らの所属する東京菱和自動車労働組合に対し懲戒審査委員会の開催を通知し代表者の出席方を求めたが、右通知にあたり「在籍者でない組合員および被審査者を除いて下さい」とし、これは、当時会社から解雇されその解雇が不当労働行為にあたるかどうかが労働委員会において争われていた組合三役を懲戒審査委員会に出席させない意味をもつものである事実が疏明資料によって疏明されることは原決定記載のとおりであり、前記従業員懲戒実施規程第六条には委員たるべき組合執行委員についてはなんらの制限も設けられていないのであるから、右のように会社が組合三役を除外するような通知をしたことは右規定に違反するものであるということができる。しかし、右従業員懲戒実施規程が労働協約や就業規則の一部であることの疏明はないから、右は単なる会社の内部規定にすぎないと解されること、≪疎明省略≫によると右従業員懲戒実施規程には原決定記載のような諸規定があることが疏明され、右諸規定によると懲戒審査委員会は社長の諮問機関にすぎずその決議は社長を拘束しないものと解されること、抗告人らに関する懲戒委員会の開催はとも角も組合に通知され、組合は組合三役の除外について会社に抗議はしたけれども、会社の措置に反撥した結果とはいえ懲戒審査委員会には出席しない旨を会社に通知し、組合三役が強いて出席しようとはしなかったことが疏明資料によって疏明されること等の事情を考えれば、会社のなした懲戒審査委員会の開催通知に関する前記手続違反は抗告人らに対する懲戒解雇を無効ならしめるほど重大なものとはいえない。

次に所論は、原決定は懲戒審査委員会の招集からその開催までまるまる一日の余裕があったと認定しているが、右のまるまる一日というのは日曜日であって、組合においては一般組合員との討議はその間不可能であり、右招集から開催まで十分の余裕をおかなかった瑕疵は軽微なものではないと主張するが、懲戒審査委員会の招集通知からその開催まで相当の期間を置くべきことを定めた規定が存することを疏明する資料はないのであるし、また疏明資料によれば、昭和四四年一二月二二日午前一〇時三〇分開催予定の懲戒審査委員会の招集通知は同月二〇日土曜日の午後二時三〇分頃なされたことが疏明され、翌日は日曜日であってもとにかくまる一日の余裕があったのであるから、組合としては一般組合員を招集して討議する余裕まではなかったとしても、他に特段の事情を認めるに足る疏明資料もない以上これがため懲戒審査委員会の開催が違法であるとは認められず、しかも懲戒審査委員会は直ちに結論を決定することなく、審査を続行して同月二五日結論を決定したものであることが疏明資料によって疏明されるのであるから、組合としてはその間に討議をすることも可能であったと考えられ、仮に懲戒審査委員会の招集期間の点に違法があるとしても、右違法は抗告人らに対する懲戒解雇を無効ならしめるものではないと解するのが相当である。

更に所論は抗告人らが懲戒審査委員会の会議場に乱入した行為については、これを審査の対象とすることについて組合に対しなんらの通知もなされていないのであるから、抗告人らの右行為を理由とする懲戒解雇は無効であると主張する。しかし、≪疎明省略≫によって疏明される前記従業員懲戒実施規程を見ても、懲戒審査員会において審査の対象とする従業員の行為について予め労働組合に通知すべきことを定めた規定は存しないから、会社が抗告人らが懲戒審査委員会の会議場に乱入してなした行為を懲戒事由としたことに違法はなく、仮にその点に違法があるとしても、右の行為は出席委員の面前でなされたものであるから、事実の誤認等により抗告人らが不利益を蒙る可能性は少く、したがってたとい組合執行委員たる委員が出席していなくても、懲戒解雇を無効ならしめる程の重大な瑕疵があるということはできないものと解するのが相当である。

(五)、抗告理由三(抗告人らの無断欠勤及び犯罪行為の各懲戒理由の成否について判断しないことの不当に関する主張)について。

裁判所は、使用者が従業員を懲戒解雇した理由の判断にあたり、そのうちの一部のみで懲戒解雇を相当と認めるときは、他の懲戒理由について判断することを要しないことはいうまでもない。抗告人らが犯罪行為を犯したこと及び無断欠勤をしたことについて疏明が存しないことは(二)において判断したとおりであるけれども、それだからといって(9)の事実については抗告人らの行為が正当であるとは認められないことも(二)において説示したとおりであるし、(10)の事実についても同様のことがいえるのであり、また、右(9)及び(10)の事実に関する抗告人らの行為は、抗告人らが佐藤訪米阻止抗議行動に参加し逮捕勾留されて会社を欠勤したことから、会社が抗告人らの懲戒解雇事由の存否につき検討をはじめたことに対し、抗告人らが抗議して行ったものではあるけれども、これまでに説示したところからいってそれは懲戒理由に該当するものであるということができるし、そして抗告人らについて処分を出勤停止又は減給に止めるべき情状が存することを疏明するに足りる資料はないから、抗告人らに対する懲戒解雇は相当であることが疏明されたものであって、論旨は理由がない。

三、以上抗告理由に対する判断のほか、当事者双方の主張に基いて、記録を精査しすべての疏明資料を検討した結果、当裁判所も原審の判断は相当であって、抗告人らの仮処分申請を却下した原決定は相当であると認めるから、本件抗告は理由がないものとしてこれを棄却し、抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 江尻美雄一 裁判官 今村三郎 後藤静思)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例